第二次 安倍政権の光と影
編者: 末次 俊之
判型: B6判・並製・456ページ
発行日:2021年8月10日
ISBN:9784909970091
定価:2,700 円+税
目 次
序文 (ⅰ)
第一章 国政選挙 (1~38) 藤本 一美
第二章 内閣改造 (39~80) 高橋 史世
第三章 女性活躍社会 (81~112) 濱賀 祐子
第四章 農政改革 (113~153) 工藤 知己
第五章 アベノミクス(154~181) 末次 俊之
第六章 辺野古基地(182~219) 村岡 敬明
第七章 安倍政権と戦後七〇年談話(220~245) 丹羽 文生
第八章 憲法改正(246~283) 新谷 卓
第九章 防衛・安全保障政策(284~323) 清水 隆雄
第十章 対米外交 (324~361) 楠美 晴之
第十一章 朝鮮半島政策(362~396) 梅田 皓士
第十二章 東南アジア政策(397~426) 伊藤 重行
結語 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・427・
最後に、第二次安倍政権について識者の声を紹介し、その上で、編者自身の考えを披露して結びとしたい。
安倍政権の功罪については、例えば、上智大学教授の宮城大造が次のように述べている。
「第二次安倍晋三政権の最大の功績は、政治に安定をもたらしたことだろう。旧民主党政権のみならず、小泉純一郎政権のあとの第一次安倍政権を含めて一年刻みの首相交代が繰り返され、国政は停滞した。現政権の支持率が底堅い背景には、政治に安定を求める国民の意識がある。
民主党が分裂して弱体化したことに加え、安倍氏にとって二度目の政権であることも大きい。第一次政権崩壊後に味わった惨めな体験が身に染みている。権力への執着は『政権投げ出し』が多かった近年の首相の中で抜きんでている。
問題はその安定した政権基盤を用いて、日本が直面する課題に正面から取り組んだといえるかだ。アベノミクスの『三本の矢』を皮切りに、『地方創生』や『一億総活躍』など、数々のキャッチフレーズは打ち出されたが、これだけの長期政権に見合った業績があるかといえば心もとない」。
一方、一橋大学教授の中北浩爾は、「『アベノミクス』こそが経済を大きくして成長をめざす自民党の伝統的手法への回帰であり、安倍政権は第一次から第二次政権で、小泉政権時代から受け継いだ『改革』から『成長』にシフトチェンジしている」、のだと断言する。
それに対して、東京大学名誉教授の御厨貴は「八年近いこの政権を振り返ると、それほど大きな功績はなかったのではないか。目標の憲法改正にしても、時折熱を入れたことはあったが、かけ声ばかりで何のために、どこをどう変えるのか、はっきりしなかった。コロナ禍さなかの経済は、とてもいいとは言えない。力を入れた外交も小さな成功の積み重ねはあったが、北方領土や拉致の問題は停滞している」、と総括している。
要するに、安倍長期政権に対する識者たちの論法をまとめるならば、安倍首相が政治に安定をもたらし、アベノミクスで日本経済を再生させた一方で、その背後には、まぎれもなく権力への執着があり、安倍首相の手法は、「改革」から「成長」に切り替えた点にある、と評価を与えている。だが、他方で「北方領土や拉致の問題は停滞」したとして、大きな業績を残せなかった、と批判する。
それでは、編者自身の立場はどうかと問われれば、さし当り次のように答えておきたい。
確かに、安倍首相の政治手法は批判されるべき点が多々あった。しかしである、私は、安倍首相が日本の政治・経済・安全保障問題に果敢に挑戦して、一定の業績を残した「革新的保守主義」政治家であった、と認識している。ここでいう、革新的保守主義とは、根の部分は保守であるものの、政策実行の面では、常に新しいものを提示し、それを実現していく姿勢である。つまり、安倍首相は、これまでの宰相とは異なり聖域を設けることなく、多くの革新的事業を試みたのだ。もちろん、共謀罪法、森友学園、加計学園問題、陸上自衛隊の日報改ざん、および対北朝鮮外交などで失点を重ね、大きな批判を浴びた。もとより、いかなる首相であっても、ある程度の失敗を避けることはできない。それを象徴した事件が、政権末期に明らかにされた、例の「桜を見る会」や、前夜祭のパーティー支払い問題であった。ただ、一方的に安倍首相の行動を批判することは安易なことで、大事なことは、総合的視野に立って長所も正当に評価しなければ不公平である、いうことを強調しておきたい。
いずれにせよ、将来、いかなる類の内閣が出現したとしても、全ての分野で成功することは困難である。現に、菅義偉内閣は発足して三ヵ月も経過してない内に、コロナ対策の対応の遅れなどを理由に、退陣を迫る動きが生じている。我々は、七年八ヵ月に及んだ第二次安倍政権下で、少なくとも自民党内から首相の退陣を迫る話を一度も聞いたことはなかった。多くの国民は、第二次安倍政権に対して長期にわたり支持を与えてきたのであって、その意味でこの先、安倍長期政権時代を回顧して、歴代内閣を評価する時が来ないとも限らない。
それはさて置いて、本書の各章においては、執筆者の各々の立場に違いはあれ、第二次安倍長期政権を光と影の両面から、つまり、正と負の視点から、事実に基づいて評価したつもりである。多くの読者による率直な御意見を賜れば幸いである。
本書の刊行に際して、出版事情が大変厳しいなか、引き受けていただいた志學社に感謝を申し上げたい。本書各章の注表記に関してその責任は編者にある。新型コロナ感染拡大の状況において、柔軟な対応をしていただいた志學社社長の服部良一氏ならびに編集部の林隆治氏にも感謝の気持ちを表したい。
末次 俊之
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