欧州安全保障協力機構(OSCE)

多角的分析 

-「ウィーンの東」と「ウィーンの西」の相克-

             

                  著 者:玉井 雅隆  

               判型:A5判・並製・220ページ  

         発行日 2021年3月29日

         ISBN:9784909970077
        定価,400円+税
  

 

 

 

はじめに 

 

勤務校の「国際関係論」の授業で、いつも学生に尋ねる質問事項がある。「欧州連合(European Union)を知っている人?」おおよそすべての学生が挙手をする。「では、北大西洋条約機構(North Atlantic Security Organization)を知っている人?」凡そ半数の学生が挙手をする。「では欧州審議会(Council of Europe)を知っている人?」少し手が上がる。「よく知っているね。では、欧州安全保障協力機構(Organization for Security and Co-operation in Europe: OSCE)はどうですか?」大体挙手はない。これは本学のみならず、他の非常勤での授業でも同様の傾向がある。勤務校の所在する酒田市のNPOや出張講義を行う東北一円の高校で話をする機会もあるが、同じような傾向である。

OSCEは参加国がアメリカ、カナダ、全欧州諸国並びに旧ソ連諸国とモンゴルを含めた57ヵ国にまたがる、世界最大の地域的国際機構である。近年では欧州連合(European Union: EU)、北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization: NATO)の東方拡大などによりその存在感は低下し、またミュンヘン安全保障会議の開催などで、OSCEの存在意義すら問われかねなくなっていた。しかし2014年に勃発したウクライナ紛争では、EUNATOは対立勢力間の調停役を果たしえなかった。結局OSCEが調停の主導的役割を果たし、「東西間の調整役」としてのOSCEが、皮肉にも冷戦後に機能したことになる。

 

OSCE研究は単独では存在しえないのだろうか、そしてOSCEの役割は終わったのだろうか、としばしば自問する。しかし海外の学会では、OSCEに関しては活発な議論となる。この温度差はどこから生じるのだろうか。この研究が国内と国外のOSCE研究に関する温度差を埋める契機となれば幸いである。

 

目 次

 

はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

 

序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

 

第1章 国際機構としてのOSCE-国連との協同 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

1-1 国連とCSCEプロセス / 9

1-1-1 冷戦期の国連とCSCEプロセス

1-1-2 冷戦終結後の国連とCSCEOSCE

1-2 国連とOSCEの協働-紛争地域における協働の実際- / 16

1-2-1 地域的国際機構と国連の協働-アフリカ連合と国連-

1-2-2 CSCE/OSCEと国連の協働関係

1-3 協働関係の成立とその要因 / 20

1-3-1 第一の要因

1-3-2 第二の要因

 

第2章 諸機構からみたOSCE ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33

2-1 民主制度・人権事務所と選挙監視活動 / 33

2-1-1 自由選挙事務所から民主制度人権事務所へ

2-1-2 OSCEにおける選挙監視活動とODIHR

2-2 自由メディア代表と表現の自由 / 39

2-2-1 冷戦期におけるメディアの位置づけ

2-2-2 戦終結後のCSCE/OSCEにおけるメディアの位置づけ

2-2-3 ソフトなトラストとしてのメディアの役割

―少数民族高等弁務官の活動―

2-2-4 OSCEにおけるメディアと「トラスト」

2-3 OSCE仲裁裁判所と紛争の平和的解決 / 45

2-3-1 ヘルシンキ宣言第5原則

2-3-2 戦終結と紛争の平和的解決

2-3-3 ストックホルム閣僚級理事会と仲裁裁判所

2-4 長期滞在型使節団(Long-term Missions, LTMs) / 53

2-4-1 CSCEプロセスにおける使節団

2-4-2 長期滞在型使節団

 

第3章 イシューからみたCSCE/OSCE ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69

3-1 宗教の自由 / 69

3-1-1 バチカンと冷戦

3-1-2 バチカンとCSCE

3-1-2-1 CSCE準備交渉とバチカン

3-1-2-2 CSCE再検討会議とバチカン

3-1-2-3 冷戦終結とバチカン

3-1-2-4 CSCEにおけるバチカンの行動

3-1-2-5 おわりに

 

3-2 地中海問題 / 84

3-2-1 準備会合

3-2-2 ヘルシンキ・プロセスにおける地中海地域問題

3-2-3 ベオグラード再検討会議(1978)

ヴァレッタ地中海地域に関する専門家会議(1979)

マドリッド再検討会議(19801982)

3-2-4 パルマ地中海に関する専門家会議

3-3 家族の再結合問題 / 92

3-3-1 ヘルシンキ宣言と家族の再結合

3-3-2 ベルン人的接触専門家会議・ウィーン再検討会議

3-4 移住労働者問題 / 95

3-4-1 移住労働者

3-4-2 家族の再結合問題と移民労働者問題

3-5 ロマ人問題 / 101

3-5-1 ロマ人を取り巻く状況

3-5-2 欧州審議会・欧州連合のロマ人政策

3-5-3 欧州安全保障協力機構のロマ人政策

3-5-4 「保護されないマイノリティ」としてのロマ人

―プッシュ要因とプル要因―

3-6 CSCEプロセスにおけるマイノリティ問題とソ連外交 / 113

3-6-1 ヘルシンキ準備会合とヘルシンキ最終議定書

3-6-2 再検討会議とマイノリティ問題

3-6-3 東欧革命期のソ連外交とマイノリティ問題

3-6-4 CSCEプロセスにおけるソ連外交とマイノリティ

3-6-4-1 内部要因

3-6-4-2 外部要因

 

第4章 「ウィーンの東」問題とOSCE

―規範の「受容」と分断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 137

4-1 CSCEプロセスのはじまり再訪

-フィンランド外交とCSCE- / 137

4-2 「ウィーンの東」問題とOSCE / 139

4-3 「ウィーンの東」問題の継続 / 143

4-3-1 「ウィーンの東」問題の性質と対抗規範の設定

4-3-2 「ウィーンの東」問題とOSCE―参加国の分断とその理由

 

おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 151

 

あとがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 153

参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 157

 

初出一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 201

 

各種OSCE資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 203

 

略称一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 205

 

索引 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 207

 

 

 執筆者紹介

玉井 雅隆(たまい まさたか)

1975年 兵庫県生まれ

1993年 大阪府立三島高等学校卒

1998年 立命館大学法学部卒

2004年 神戸大学法学部卒

立命館大学国際関係研究科博士後期課程 修了 博士(国際関係学)

職歴 高知大学 医学部 講師

立命館大学 政策科学部 講師

京都学園大学 経済経営学部 講師

関西学院大学 国際学部 講師

横浜市立大学 国際教養科学部 講師 等を歴任

現在、東北公益文科大学, 公益学部, 准教授

 

 

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